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「最後の炎」とは池袋のジュンク堂で出会いました。旗揚げ公演の戯曲を探していた頃、2年前です。当初の筆頭候補はミュラーの「指令」マクドナーの「コネマラの骸骨」デリーロの「白い部屋」……この辺りでした。だけど心は移ろい気味で、何かいい出会いがないかな、なんて最初は軽い気持ちでその一冊を手に取りました。パラパラと頁をめくって、数行読んだだけで「この本を上演するんだ」と気付きました。直感的に、私の人生の原体験がここにある、そんな気がしたのです。

家に帰って全編読んでみて、その予感は間違ってなかったことに気付きました。それに難易度も頗る高い。面白い上演作品になるヴィジョンが見えない。旗揚げ公演にするには手に余りすぎる……だから決めました。シヅマのコンセプトは「大怪我をする」です。転び方を覚え、転ぶことを恐れる大人になってしまった3人が、思いっきりズッコケる作品をやろう。そして新しい転び方を覚えよう、そしてまた転びに走ろう、3人ならきっと笑い飛ばせる……「最後の炎」はそう言った意味で、理想的な作品だと感じました。そこにたくさんの仲間が集まりました。暖かくて優しくて、心強すぎる人たちです。改めて、本気で走らなきゃな、シヅマは思いました。

そして稽古開始です。圧倒的困難な戯曲に相対して、きっと地獄のような日々が待ってるんだろうなと恐れ慄いていたのですが、意外や意外、5月に入った今もだらだら楽しい毎日を過ごしています。焦りは微塵もなく、心は穏やか(少なくとも私の)、毎日稽古場で遊んで過ごす毎日です。こんなんでいいのか?いいと思います。苦労や苦悩は作品の質に直結しません。同じ創作なら、まったり楽しいに越したことはない。シヅマは作品至上主義を否定します。「良き作品を作る」という名目で暴力を肯定しちゃいけない。演劇を暴力の免罪符にしてはいけない。だから稽古場に最も大切な要素は安心と安全、そして一人ひとりの心の余裕です。役者の健全な心身が放つ魅力は凄まじいものです。その魅力を知らない役者は、演出家は、不幸です。

そんなことを言うからには、シヅマは健全な団体なんだな、という先入見を持つのも危険です。ネットでは倫理道徳観出来杉君でも、実際会ってみたらとんだモラルクラッシャーだった、なんていう例はゴマンとあります。だからまあ、作品はフェアにみてください。掲げた理想が口だけにならないよう、それを目指して歩き続け、油断せず、自覚的に、でも恐れは受け入れ、稽古という宝のような時間を慈しみながら、残りの時間を過ごしたいと思います。

魅力的すぎる役者、素敵なスタッフが集った「最後の炎」どうぞお楽しみに!
 

写真:いしはらだいすけ


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